私たちは変わるべきか~AIのある世界~

By Shiho Baisho

突然、AIの世界がきてしまったのでしょうか。ビジネス市場は全てAIに飲み込まれてしまうのでしょうか。実はAIの研究は長く40年近く前から始まっており、またAIの活用が盛んになったのも昨日今日の話ではありません。アンソニー・グリフィン(Saga Consulting プリンシパルコンサルタント)は、自身も長らくAIツールを活用し、また同業界を広く研究してきた経験から、AIのある世界で私たち人間が考えなくてはならないことについて深掘りします。

 INDEX

①米国調査:AIはどのように創造性を高めてきたのか

②日本市場のAIへの反応について考えること

③AIの登場により、クリエイターやナレッジワーカーの働き方は世界でどのように変わるのか。そして、日本のビジネス市場も同じ潮流にいるのか

④認識すべきAI技術の落とし穴

⑤AI時代を生き抜くために必要なスキル・能力


①米国調査:AIはどのように創造性を高めてきたのか

欧米でのAI活用の台頭は、瞬く間に広まったOpenAIのChatGPTの人気に象徴されるように、最近突然始まったと多くの方が感じているかもしれません。しかし、欧米の経験豊富なクリエイターたちはかなり前からAIツールを創作活動に利用してきました。

例えば、ライターやマーケティング担当者は、ChatGPTブームよりもずっと以前からWritesonicJasperを活用してきました。当初、これらの先駆的ツールはChatGPTほど強力ではないものの、クリエイターが案件を進める上で十分なヒントを与えてくれてきました。Microsoft 365版のPowerPointとExcelでは、それぞれスライドや、データインサイトの自動生成が可能で、ジェネレイティブAIの片鱗と言ってもいいでしょう。

最近では、クリエイターやナレッジワーカーは、執筆や編集、データ分析、画像作成、リサーチ、反復作業の自動化など、ほとんどあらゆることにAIを活用しています。それでもなお現在において、AIが一般的にもっと広く使われていない理由は、人々がただAIの可能性に慣れておらず、このような強力なツールとの付き合い方を学んでいないからです。私たちはまだ、「AIはどのように私を助けてくれるのか」と常に自問し、私たちのニーズを満たす適切なプロンプト(AIに対して入力する指示のこと)を導き出すことに慣れようとしている途中なのです。テクノロジーの進化は非常に速く、私たちはまさにハムスターが車輪の上を走っているかのように、その進化についていこうとひたすら走っているのです。

②日本市場のAIへの反応について考えること

日本のビジネス市場ではよくあることだが、AIに対する日本企業のアプローチはより慎重で段階を踏んでいると言えます。とはいえ、日本企業はAI活用におけるプライバシーやセキュリティの問題をいち早く察知し、欧米の企業よりもそのリスクを意識しているようです。業務でのAI使用を禁止している大手企業もあれば、所有データをインターネットに接続しないようにしながら、従業員が使用できるカスタムメイドの社内専用クローズドAIシステムをすでに導入している企業もあります。このような日本企業の慎重なアプローチは、世界市場において競争上不利になるかもしれないが、長期的にみて、AI使用によるプライバシーへの懸念が大きな現実問題となったときに報われ、競争上有利に働くかもしれません。一方、政府は、少なくとも当面は積極的に規制・指導をしないというアプローチを取っているようにみえます。これは、AI技術が、日本の喫緊の課題である人口減少問題への対策となる可能性が高いことを考えれば、理にかなっています。

その他の点では、他国と同様、日本でも一般の人々が翻訳関連業務でAIを活用することが増えていくのは間違いないでしょう。特に、日本の将来を支える教育という難しい分野でAIがどのように活用されていくのか、例えば、AI技術が日本の英語教育業界にどのような影響を与えるかは興味深いと言えます。

③AIの登場により、クリエイターやナレッジワーカーの働き方は世界でどのように変わるのか。そして、日本のビジネス市場も同じ潮流にいるのか

自身も長らくAIツールを活用し、同業界を広く研究しているアンソニー・グリフィン(Saga Consulting プリンシパルコンサルタント)は、「私は未来学者ではないが、AIは知識労働者の生産性に大きな影響を与える」と語っており、実際、その影響はすでに現れています。例えば、昨今のニュースヘッドラインをざっと確認するだけでも学期末レポートや法的文書の概要の作成、またウェブサイト制作や会計業務など、人々は多様な作業をAIを使って成し遂げているのかがうかがい知れます。

さらに、一部の企業が行っている検索エンジンの検索結果ランクを上げる(いわゆるSEO対策の)ためのライティング作業(低コストで量産されたコンテンツ)をAI技術は凌駕することができてしまうのです。つまりそのコンテンツ・ファーム業界においては、少なくとも人間のライターに依存していた現状を、AIが取って代わってしまったと言えるのです。しかし、アンソニー・グリフィンは、AIがもたらす変化について、これまでの技術革新で見られたように、全体でプラスになることを期待していると言います。セス・ゴーディン氏はブログ記事で「テクノロジーは、古い仕事を簡単にすることから始まるが、同時に新しい仕事をより良くすることを必要とする」と指摘しています。

理想的には、AIはこれまで以上に効率的に、より多くの仕事をこなすためのツールとして進化し続け、以前は私たちの能力では為し得なかった最終製品を生み出すサポートをしてくれる世界がくることです。そしてその世界では、必然的に新しい仕事やキャリアが生まれると考えられます(例:プロンプト・エンジニア)。

④認識すべきAI技術の落とし穴

私たちがAI活用で注意すべき点についてアンソニー・グリフィンは、ハルシネーション(Hallucination:幻覚)であると説明します。ハルシネーションとは、一見もっともらしい情報であるが、実際は事実と異なるウソの情報をAIが生成することで、まさにAIのウィークポイントと言えます。従って、現時点ではAIを用いて作成する重要なコンテンツには、人間のファクトチェックが必要だと強調しています。

また、新しいコンテンツを作るためにAIが参考にするデータは全てすでに存在するもの、つまり学習させたデータだけです。現時点ではAI自体が世界に出て、新しい経験をし、その経験に基づいてコンテンツを作成することはできません。そのため、AIが作り出したコンテンツの多くは一般的な焼き増しであり面白くありません。学期末レポートのような学術分野ではそれでも問題にはならないであろうが、マーケティング分野でのAI活用においては、キー操作ひとつで質の高い魅力的なコンテンツを作成できるまでには至っていません。

⑤AI時代を生き抜くために必要なスキル・能力

私たちを取り巻くAI環境は、前述の「ハムスターが車輪の上を走っているような」状況であり変化が非常に激しいです。現状AIの波の影響を大きく受けるクリエイターやナレッジワーカーは、どのように生き抜くべきなのでしょうか。アンソニー・グリフィンは、私たちはできるだけ早くAIツールを習得し、使いこなす必要があるとコメントしています。雇用主やクライアントがAIから期待した成果を生み出せるように手助けができる特別なスキルの持ち主として自分を位置づける必要があります。そのために必要なティップスを端的にご紹介します。

- 効果的なプロンプト(AIに対して入力する指示のこと)の書き方を学ぶ

- 複数のAIプラットフォーム(OpenAIBingBardPoePerplexityなど)の長所、短所、最良の使用例を熟知すること

- AIが作成したものを編集し、ファクトチェックする方法を知ること

上記をスキルとして身に付けた上で、AIが再現できないこと、つまりあなたならではの個人的な知識や経験を伝えることにも力を入れるべきなのです。つまり、AIが機械学習するデータセットにはない新たな洞察を加え、コンテンツをより良いものにするために、私たち自身が自分の仕事や教育経験を深く掘り下げる必要があるということです。また芸術、執筆、創造的な仕事において、よりパーソナルな発想が求められるかもしれません。

AI時代に成功するための具体的なスキル・ティップスは存在するものの、私たちはこれまで以上に「人間らしさ」を求められる時代を生きているのです。


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