歴史の視点から見るNintendo Switch 2の発売
/Translated by Shiho Baisho
「時の流れは川のように… そして歴史は繰り返す…」
聖剣伝説2(Secret of Mana)
熱狂的なゲームファンでも、カジュアルに楽しむゲーマーでも、あるいはその中間のタイプの方でも、2025年6月発売予定のNintendo Switch 2に至るまでの流れが物議を醸していることは否定しがたいでしょう。初代Switchは、性能では劣るものの手頃な価格で、ソニーやマイクロソフトが展開する高性能なコンソールとは一線を画して大成功を収めました。これにより任天堂は、コアゲーマーと家族向けユーザーという、一見相反するニーズを両立した独自の市場を築き上げることに成功したのです。
しかし、SwitchからSwitch 2への価格の跳ね上がり(ハードウェアは$299.99から$449.99への上昇)、ソフトウェアもタイトルによっては最大$20の値上げという状況は、インフレに見合ったものであるとはいえ、主要市場における賃金の伸びとは乖離しています(その結果として、日本限定の低価格バージョンが登場する事態にまで至りました)。2025年4月の「Nintendo Direct」以前には、Switch 2の発売は誰の目にも成功が約束されたもののように思われていました。ところが今では、価格設定や「キーカード」(大容量のダウンロードが必要な、ほぼ空のゲームカートリッジ)などに関する透明性の欠如によって、任天堂はコミュニケーション面での危機に直面しています。
Switch 2をめぐるネット上の議論を見て、私は長年ゲーマーとして、業界で働いていたものとして、また業界ウォッチャーとして経験してきた数々のコンソール発売を思い出しました。そして過去の前例が、Switch 2の運命を読み解くヒントになるかもしれないと気づいたのです。このコラムでは、Switch 2のデビューを過去のいくつかのコンソール発売と比較し、最悪のシナリオから最良のシナリオまで順に紹介します。これは予言というより、あくまで思考的実験です。いずれ時が経ち、全てが明らかになったときに、振り返って楽しめる記事として読んでいただければと思います。
発売時に想定される4つのシナリオ
1. Xbox One:何世代にもわたる大惨事
ゲーム史上最も失敗したコンソール発売のひとつとして語り継がれるのが、2013年に登場したマイクロソフトのXbox Oneです。これはまるで隕石の衝突のように、Xboxブランドに取り返しのつかないダメージを与えました。このコンソールは常時接続のマルチメディア・セットトップボックスとして設計・宣伝・発売されましたが、それはゲーマーが望んでいたものではありませんでした。当時のXbox部門を統括していたDon Mattrick氏は、懸念を示すゲーマーに対して「旧機種を使っていればいい」と発言して火に油を注ぎました[iii]。そして、この姿勢は現在、アメリカ任天堂のDoug Bowser社長のコメントにも不気味なほど重なります。
とはいえ、Switch 2がXbox Oneと同じ運命をたどるとは考えにくいです。なぜなら最大の懸念事項はハードとソフトの価格ですが、これは後々調整可能です(後述の3DSの例を参照)。製品としては、任天堂はユーザーが求めるものをきちんと提供しています。さらに、ゲーム業界において任天堂ブランドの信頼性と回復力は、マイクロソフトのそれとは比べものになりません。何しろ任天堂は1980年代に業界全体を立て直し、その後も常に革新を続けてきたのです。
2. Wii U:任天堂の最大級の失敗のひとつ
たとえ強力なブランドを持っていても、任天堂は失敗を経験したことのない企業ではありません。Switchのような大ヒット機がある一方で、バーチャルボーイのような大失敗もあれば、ゲームキューブのような期待外れもあります。中でもSwitch 2の発売を考えるうえで最も参考になるのが、2012年に登場したWii Uでしょう。
Wiiの大成功の直後に登場したWii U(ちなみに筆者は大学院の修士論文でWiiの成功を予測する研究をしていました)は、一見すると次のヒット間違いなしと思われていました(聞き覚えありませんか?)。
ところが、Wiiからの性能向上はごくわずかで、インターフェースは混乱を招き、製品の魅力も消費者にうまく伝わりませんでした。その結果、Wii Uの販売台数は合計約1,300万台にとどまりました(参考までに、初代Wiiは1億100万台以上を販売しています)[iv]。Switch 2がSwitchに非常に似ていることを考えると、これはSwitch 2にも当てはまる現実的なシナリオといえるでしょう。発売当初は、任天堂の熱心なファンがWii Uの時と同様にSwitch 2を購入するのは間違いありません。実際、予約注文の数がすでにその傾向を示しています[v]。
しかし、外観が同じでゲームライブラリが重複している今、長期的な市場成功に不可欠であるライト層は現在のSwitchからの買い替えに価値を見いだせないかもしれません。特に価格が大幅に上がっている中で、「家族でたまに遊ぶだけ」のユーザーが、わざわざ450ドルも出して新しいゲーム機を買うでしょうか?
ただ、現在の任天堂ブランドはWii U時代よりもはるかに強力であり、最近ではプレイステーション5の成功にも見られるように、消費者が娯楽にお金を使う傾向も確認されています。したがって、Switch 2がWii Uの轍を踏まずに済む可能性も十分にあります。
3. ニンテンドー3DS:価格戦略の転換
2011年に発売されたニンテンドー3DSは、Switch 2の発売シナリオとして最も現実的なモデルのひとつかもしれません。発売当初の価格は$249.99と、携帯型ゲーム機としては高価で、消費者の反応は冷ややかでした。その結果、任天堂は発売からわずか5か月で、異例の32%もの値下げに踏み切ることになります。[vi]
この価格改定が功を奏し、アメリカではたった19日間で売上が260%も急増しました[vii]。ちなみに、ソニーのPlayStation 3も似たような経緯をたどっています。PS3は非常に高い価格で発売され、販売も伸び悩みましたが、ソニーは複数回の価格調整を行い、最終的にはXbox 360に奪われた市場シェアを取り戻しました。この事例が示しているのは、仮にSwitch 2の発売が価格のせいでつまずいたとしても、迅速な方針転換によって成功の道が開けるということです。
4. PlayStation 5:逆境の中での成功
おそらく任天堂経営陣が目指しているのは、このシナリオではないでしょうか。2020年に発売されたPlayStation 5は、パンデミックという異例の状況、またハードとソフトの価格が前世代機より明らかに高かったにもかかわらず、大成功を収めました。専用ソフトのラインナップが少なかったことや、世界的な経済不安を考えると、これは前例のない快挙です。
例えば、価格が100ドル高かったにもかかわらず、PS5は発売後52か月間でPS4より約7%多くの台数を販売しました[viii]。またゲーム業界の「ビッグ3」(ソニー、マイクロソフト、任天堂)の中で、ソニーは2番目に長い歴史を持ち、比較対象としては非常に適しています。
とはいえ世界的な経済不安が続く中で、消費者がパンデミック以降すでに多くの支出をしてきた状況において、さらにSwitch 2という高価格な製品にお金を出す余裕があるのかは疑問です(ゲーム以外にも、スマートフォン、旅行などさまざまな出費があります)。むしろ、PS5の成功は、パンデミックによる給付金やインドアの娯楽に対する前例のない需要によって後押しされた面もあったと考えられます。
今、任天堂はまったく異なる世界に直面しています。給付金もパンデミックによるロックダウンもなく、代わりにインフレと関税による価格上昇が消費者を圧迫している状況です。
熱狂のあとに、歴史に学べ
経済的な逆風やコミュニケーションの失敗がありながらも、Switch 2は発売初期においては好調なスタートを切る見込みです。需要が供給を上回っており(任天堂が意図的に供給を絞って話題を煽っているのでは?という疑いもありますが、それはまた別の記事のお話とします)、販売は順調です。
とはいえ、懸念は残ります。最初の熱狂が冷めたあと、何が起こるのか?価格に関係なくSwitch 2を買う熱心なファンたちに行き渡った後、このハードはどれほど売れ続けるのか?それを見極めるためには、歴史を振り返ることに意味があります。過去を知ることで、現在を理解し、未来を予測するヒントが得られるかもしれません。
最後までご覧いただきありがとうございました。
[i] Garcia, Carley. “‘A True Crisis Moment’ Ex-Nintendo Employees Comment on Switch 2 Backlash.” Game Rant, April 4, 2025. https://gamerant.com/nintendo-switch-2-backlash-employee-reaction/.
[ii] Keighley, Geoff. "E3 2013 - Microsoft's Don Mattrick Interview." YouTube video, 13:35. Posted by GameTrailers, June 10, 2013. https://www.youtube.com/watch?v=bTAKSBvuT-A.
[iii] PCMAG. “Can’t Afford a Switch 2? Nintendo Exec Suggests You Stick With Switch 1,” April 9, 2025. https://www.pcmag.com/news/cant-afford-a-switch-2-nintendo-exec-suggests-you-stick-with-switch-1.
[iv] Nintendo Co., Ltd. “IR Information : Sales Data - Dedicated Video Game Sales Units.” http://www.nintendo.co.jp/ir/en/finance/hard_soft/index.html.
[v] Vikki Blake. “2.2 Million People Applied to Pre-Order a Switch 2 in Japan Alone, Says Nintendo.” GamesIndustry.biz, April 23, 2025. https://www.gamesindustry.biz/22-million-people-applied-to-pre-order-a-switch-2-in-japan-alone-says-nintendo.
[vi] “After Big Quarterly Loss, Nintendo Slashes 3DS Price - CBS News,” July 28, 2011. https://www.cbsnews.com/news/after-big-quarterly-loss-nintendo-slashes-3ds-price/.
[vii] CNET. “Price Cut Helps 3DS Sales Soar 260 Percent.” Accessed April 25, 2025. https://www.cnet.com/home/smart-home/price-cut-helps-3ds-sales-soar-260-percent/.
[viii] Rivera, Nick. “The PS5 Is Selling Faster Than the PS4 Did, Despite a Rocky Start.” CBR, February 3, 2025. https://www.cbr.com/ps5-outselling-ps4/.