なぜアメリカ車は日本市場で定着しなかったのかー本当の理由とは
/昨今の貿易関税をめぐるさまざまな議論の中で、日本でのアメリカ車販売台数が低いことも指摘されています。一部の主張には正当な懸念も含まれていますが、「貿易障壁」と「市場の動向や消費者の嗜好」は切り離すべきトピックで、今回は日本の車市場に焦点を当てて考えてみましょう。
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Translated by Shiho Baisho
私(アンソニー・グリフィン)が2000年代半ばにMBAを取得していた頃、毎日ケーススタディを読み込んでいました。車好きの私にとって、自動車業界の事例は特に印象深いものでした。その中で初めて知ったのは、1990年代半ばまで、日本で販売されていたアメリカ車のほとんどが左ハンドルだったという事実です。つまり、アメリカの自動車メーカーは、日本の一般消費者が「逆側」にハンドルがある車を購入し、運転することを当然のように期待していたのです——これは言うまでもなく日本の消費者にとって非常に不便なことです。
この慣習はその後の数年間で徐々に変化しましたが、すでに悪い印象は根付いていました。アメリカの自動車メーカーは、日本の消費者の嗜好やニーズを無視しているという悪い評判を得てしまい、「第一印象は挽回できない」という状況となっていたのです。
そして現在に至るまで、例外を除いて、アメリカ車は日本の道路で目立った存在感を示すことができていません。フォードは2016年に日本市場から撤退し、そしてゼネラル・モーターズは、左ハンドル車をステータスシンボルと捉える日本の富裕層をターゲットとした、ニッチ市場で販売するという戦略をとっています。
日本自動車輸入組合および日本自動車工業会のデータを分析すると、2023年に日本で販売された乗用車のうち、アメリカ車は1%未満しか占めていないことが分かります。アメリカの自動車業界の幹部やロビイストは、「外国車は日本市場から締め出されている」と主張していますが、米国車に対する輸入関税が存在しないことや、欧州ブランドが全体の4.8%を占めるなど一定の成功を収めていることを踏まえると、その主張には疑問が残ります。確かに一部の懸念には正当性があるものの、「貿易障壁」と「市場の動向や消費者の嗜好」は混同すべきではありません。
参入障壁
食品から医薬品に至るまで、業界を問わず、日本市場で成功を収めることは外国企業にとって非常に困難です。島国として地理的・文化的に唯一のものとして他国から離れ異なってきた背景から、日本では国産の製品やサービスに対する消費者の忠誠心が非常に高く、独自のニーズに応えるものが好まれます。とはいえ、人口が減少しているにもかかわらず、日本市場は業界によっては世界で2位または3位の規模を誇る巨大市場です。そのため、文化的・政治的な参入障壁があるにもかかわらず、スターバックス、アップル、ハーレーダビッドソンなどの外国ブランドは、日本市場に本格的に参入するために多大な投資と製品調整を行い、日本の消費者ニーズに応えようと努力してきました。
とはいえ、日本の自動車市場への参入は特に難しいとされています。2016年8月号の『ACCJジャーナル』では、外国自動車メーカーが直面する現実が鮮明に描かれています:
「日本は米国車の輸入に関税を課していないものの、米国の自動車メーカーは競争における非関税障壁を指摘しています。これには、日本独自の規格、販売・修理施設に関するゾーニング規制、差別的な財政優遇措置、高額な認証手続きなどが含まれます。日本特有の法規制や試験要件、国内流通網や法人向け市場へのアクセスの制限が、依然として海外メーカーの参入機会を狭めています。」
さらに、外国メーカーが直面するもう一つの大きな課題は、日本市場の30〜40%を占める「軽自動車」の存在です。軽自動車は非常に小型で馬力も低く、日本の狭い道路をスムーズに走行できる設計になっています。多くの外国メーカーはこのタイプの車をラインアップに持っておらず、日本市場向けに専用車種を新たに開発するか、日本の自動車メーカーと提携する以外に大きなシェアを獲得する方法はほとんどありません。これらはいずれも膨大な時間と資本を要する取り組みです。
日本の軽自動車。日本市場特有の燃費効率の高い車両で、国内の新車販売の約30〜40%を占める。
日本の自動車業界で競争するには確かに大きな障壁がありますが、国際市場にはそれぞれ独自の参入障壁があり、米国も例外ではありません。それにもかかわらず、日本の自動車メーカーは米国市場で驚くべき成功を収めており、近年では市場シェアが約40%前後で推移しています。
一方、欧州ブランドも日本市場で着実に存在感を高めています。CLSAのマネージング・ディレクターであるクChristopher Richter氏によると、「メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン(アウディを含む)は、毎年日本で数万台の車を販売しています。これは日本の全体市場や他の主要市場と比べるとまだ少ない数字ですが、決して無視できるものではありません。」
では、なぜ多くのアメリカ車ブランドは日本市場で成功を収められていないのでしょうか?同氏の言葉を借りれば、アメリカの自動車メーカーは「本気で取り組んでいない」のです。
日本の消費者を理解し、対応すること
「日本には異なる市場があり、異なる消費者がいます」と、米国自動車研究センターのリサーチ担当ヴァイスプレジデントのKristin Dziczek氏は語ります。「私たちは、北米の消費者向けに作った製品の余り物を他の市場でも売れることを期待して提供しているのです。」
2017年の『The Atlantic』の記事では、日本市場で成功するために必要なことが明確に示されています:
「たとえば、BMWの3シリーズでは、日本向けの車のドアハンドルが他国仕様よりもわずかに細く設計されています。これは貿易障壁ではなく、ブランドが対応するか無視するかを選べる『消費者の好み』です。BMWは、日本が依然として世界最大級の市場であることを踏まえ、こうした仕様に合わせることを選びました。一方、貿易障壁について不満を述べる米国企業は、同様の努力をしていないのです。」
日本の消費者ニーズに応えるということは、単に輸出される車の形状、サイズ、機能にとどまりません。日本の自動車メーカーが提供する販売店でのサービス体験は、アメリカ人にとって日常とされる、しばしば不満を抱くものとは大きく異なります。『The Atlantic』によると、ほとんどのアメリカの自動車メーカーは、日本の消費者が期待するような販売ネットワークを構築・維持するために必要な多額の資本を投資することに消極的です。「日本では、車の点検が必要になると、販売店が車を引き取りに来て、整備を行い、その後返却してくれるのです。」
これが、特に高級ブランドを中心とした欧州車が日本で比較的成功している理由の一つかもしれません。欧州ブランドはすでに他の国々でも高品質なディーラー体験を提供しており、日本の高い顧客サービス基準に対応するための労力が少なくて済むのです。
注目され始めたアメリカの新星
ジープ車は日本でも比較的よく見かける存在であり、最近の販売実績もそれを裏付けています。日本はジープ・ラングラーの世界第2位の市場です。
ジープ(現在はステランティスの一部)は、すべての米国自動車ブランドが日本市場を諦めたわけではないことを示しています。実際、ジープは2010年代半ば以降、日本市場への取り組みを強化しており、目覚ましい成果を上げています。たとえば、日本自動車輸入組合のデータによると、2014年から2021年の間にジープの年間販売台数は約7,000台から14,000台以上へとほぼ倍増しました。もちろん、14,000台という数字は依然として比較的少ないものの、他の米国メーカーと比べれば圧倒的に多く、しかもジープは成長の勢いを緩める気配がありません。実際、Carscoopsの報道によれば、2022年11月時点で日本はジープ・ラングラーの世界第2位の市場となっています。
では、ジープはどのようにしてこの成果を達成しているのでしょうか?本コラムで紹介されている要素をすべて満たしているからです。つまり、日本の消費者ニーズに対応したローカライズされた車両と販売店を提供し、長期的な視点で市場に投資しているのです。Carscoopsの別の記事では、ステランティス・ジャパンの元社長兼CEOであるPontus Häggström氏が、ジープが日本で成功している背景について次のように語っています:
「それを実現するには、資金も技術者の時間も必要ですが、価値はあると考えています。確かに、日本に車を持ち込むには手間もコストも時間もかかります。でも、それは貿易障壁でしょうか?私の率直な意見としては、違います。日本で売れない理由や成功できない言い訳になるか?それも違います。」
他の米国メーカーが「参入困難」とする日本市場で、ジープはどこまで成長できるのでしょうか?ヘッグストローム氏は、ジープにはまだ成長の余地があると確信しているようです。Automotive Newsによれば、ジープは現在、販売店ネットワークの拡大を目指した急速な成長計画の真っ只中にあります。
他の米国自動車メーカーが今後、日本市場で再び存在感を示そうとするかどうかは、時間が教えてくれるでしょう。もし挑戦するのであれば、ヘッグストローム氏が『ACCJジャーナル』で語ったアドバイスを参考にすべきかもしれません:
「ジープはまだ“大きな池の中の小さな魚”かもしれませんが、最近の販売実績は、消費者を理解し、適切なポジショニングを行えば、米国ブランドにも市場での可能性があることを証明しているのではないでしょうか・・世界で最も洗練された市場に来て、行き当たりばったりで成功しようとしてはいけません。」
最後までお読みいただきありがとうございました。
このストーリーの一部は、2022年12月6日にcombrainsにて公開されたものです。